十種神宝 中学国語の基礎・基本

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カテゴリ:生きる力 > 確かな学び

「情報処理能力」と「情報生産能力」の違いとは何でしょう。これはマーケティングの世界では有名な話です。
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靴のセールスマンが2人、南洋の孤島を訪れた。島の人たちを見ると、皆が裸足である。
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そこでひとりのセールスマンは、本社に次のような手紙を出した。「えらいところへ来ました。我々にはまったく用のないところです。誰も靴を履いていないんですから」

ところが、もうひとりのセールスマンは、興奮しながら、本社にこんな電報を打ったという。「すばらしいところです。まだ誰も靴を履いていませんから、いくらでも靴が売れます」

でも会社はこの報告に納得できずに3人目のセールスマンを派遣した。

すると、このセールスマンは島民にいろいろと聞き込んでから、会社にこのような電報を打った。
「島の人間は誰も靴を履いていません。そのため彼らの足は傷だらけです。私は島民に、靴を履けば足は守られ、足の痛みから解放されると説明しました。みんな非常に喜んでいます。島民の80%が一足12ドルなら購入すると言っています。これなら初年度だけで5000足は売れるでしょう。まずはシンプルなもので十分なので、安価に大量生産できます。これに島までの輸送と現地での流通や販売にかかるコストを差し引いても大きな利益が見込めます。ライバルに気づかれないうちに早く話を進めましょう。」
参考文献:『コトラーのマーケティング・コンセプト』(フィリップコトラー著、恩藏直人訳、東洋経済新報社)
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最初の二人は、目から情報を処理し「島の人間は誰も靴を履いていない」という結論を得ました。
本当にそうなのか、なぜそうなのか、自分の視覚から得られた情報からしか判断していませんから、情報収集やその分析も含めた情報処理能力に問題があった二人です。
しかし、同じ結果をもとに、一人は「靴は売れない」、もう一人は「靴は売れる」と異なった情報を生産し、会社に報告しました。

三人目のセールスマンは「足は傷だらけ」と新しい情報を追加し、コストパフォーマンスを計算した上で「靴は売れる」という情報を生産しました。
しかしここには、靴を履かないことによるこの島の背景や文化等の情報が欠けています。

彼の生産した新たな情報は「靴を売る」ことを前提としたものだったような気がします。

PISA型学力は産業界の要請によるものだと言われています。そしてここで求められる人材は三人目のセールスマンのような人間です。

「靴を売る」という与えられた命題に対して、的確に情報を収集・処理をし、最適解を導き出し具申する力とも言えます。

一番最初のセールスマンは、ひょっとしたら、島の人間に靴を履かせることによって、流通や販売等の経済的な波及効果も考えた上で島の生活や文化が破壊されてしまうかも知れないと考え「靴を売ってはいけない」と主張したかったのかもしれません。

確かにPISA型学力は、これからの社会に必要不可欠なものだと思います。
しかし同時に、与えられた命題について、その善悪を見極める心も育てないといけないと思います。
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そしてそれを育てることができるのは、国語科では文学的文章の読解のような気がします。
今回の学習指導要領の改訂で文学的文章に対する指導のウェイトが下がっているのが、とても心配です。



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OECD(経済協力開発機構)によるPISA(学習到達度調査)の結果が発表されました。
日本では「読解力」の低下が著しいという結果がでました。

PISAの結果が悪かったために、若い先生たちが当時学んでいた「ゆとり教育」の見直しが行われたのはご存じの通りです。
そして今、教育委員会をはじめ各学校で、全国学調の成績を上げるためにどうしたらいいか、を考えています。まるで「全国学調の成績を上げることが正義である」かのような勢いです。

これは一面では正しいですからね。そして「学力」という言葉そもものを使わないようにした文科省は慧眼だと思いますよ。

全国学調に対する教育委員会の対応と同じように、PISAの成績を上げることに敏感になり、そのために万策を尽くし方向転換をすることすら辞さないのが文科省です。

だって産業界=社会の要請なのですからね。

PISAの成績はなぜ伸びないのでしょう。

それは学習塾で取り扱わないからです。

塾の目的は、一人一人の生徒が高校・大学入試に対応できる力を身につけさせることです。
PISAも全国学調も、その成績は一人一人に還元されません。

文科省は「そうならないように……」と言っていますが、どうなんでしょう。
文科省は全国学調の成績を入試に加味しようとした某地方自治体を必死で止めましたけどね。

ですから学習塾は、PISAや全国学調に特化した内容は教えません。

ところが現在、大学入試制度が改革されようとしています。
今回は英語の民間試験導入や論述問題等の問題は解決されませんでしたが、いずれ大学入試はPISA問題に似てくると思います。

既に難関大学の問題はそうなっているところが多いですね。

そして大学入試を変え、それによって高校の授業を改革し、高校入試を変え、義務教育も変えていこうということは「大学入試改革で雪崩を起こす」でお話した通りです。
今回PISAの結果が出て、教育改革は更に加速するでしょう。

今回のPISAの問題は、読解力問題を見ればわかるように、パソコン画面に提示されるブログや書評、ニュース記事を次々と読み、設問に答えていく形式のテストです。そして最後の問題は、これらのテキストを読解した上で、根拠をあげて自分の考えを書く問題になっています。
2018 読解力
確かにパソコンの操作に慣れていなければ不利なのですが、問題の本質はそこではありません。

この問題の特徴は、次々と提出されるテキストの情報を高速に処理していく力(情報処理能力)とその結果を組み合わせ、与えられた課題に対して最適の解を時間内に導き出す力(情報生産能力)の二つの能力を測ろうとするところにあります。

PISAが求める「読解力」とは、「憎きもの」でお話しした「読解リテラシー」のことです。
そして高度な増俸処理能力と情報生産能力については「二つの学力観」で少し説明させていただきました。

もしPISAが求めるものを測定するような問題が大学入試で一般化された場合、学習塾ではこぞって高得点がとれる指導に切り替えていくでしょう。そしてこれは必ず高校入試に波及します。塾はそのノウハウを中学生にぶつけてくることは想像に難くありません。

今は学習塾が「自分には関係ない」と横を向いているからPISAや全国学調の成績が上がらないのです。

しかし入試となると塾は時目の色を変えて指導ノウハウを確立し実践していくでしょう。
そしてその指導は、徹底的に過去問を解かせ、解くポイントを指導していくものになるのだと思います。

過去問をたくさん解かせれば全国学調の成績が上がることは各都道府県レベルで実証済みでしょう。そしてその解法テクニックをうまく解説してやれば鬼に金棒です。……これは私が実際やっていました。
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その時学校は……

これは国語科の問題だけではありません。社会科も同じです。
そして国際化の時代、テキストはすべて日本語で書かれているはずがありません。英語で書かれたテキストに対してこそこの能力が求められている……だから英語教育に力を入れているのでしょう。

数学的リテラシー、科学的リテラシーの問題も同じです。
公開されている2015年の科学的リテラシー問題は、数値や図表・グラフ、あるいはデータの正当性等を問うもので、内容的に今回の読解リテラシーの問題と変わりがないのです。

今、受験戦争が最も厳しいとされる某隣国は低下傾向にあります。今までの入試問題に対応している知識重視の授業ではダメなのです。

そしてそう遠くない将来……おそらく3~5年後、わたしたちが旧態依然の、教科書の内容をただ教えようとする授業を展開していたら、生徒や保護者は学校への信頼をなくしてしまうかもしれません。

……授業改革を行うのは、今しかないのです。


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