十種神宝 中学国語の基礎・基本

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カテゴリ:中学国語 授業のヒント > 古文

7e6d568f良寛
「いろは歌」は「音読に親しもう」とある通り、

○ア 伝統的な言語文化に関する事項
  • 文語のきまりや訓読の仕方を知り、古文や漢文を音読して、古典特有のリズムを味わいながら、古典の世界に触れること。(ア)
をねらいとする教材です。

ポイントは「文語のきまり」「音読」「リズムを味わい」です。
だからと言って、一時間「いろはにほへと」と音読をさせていたのでは、江戸時代の寺子屋以下の指導です。

この教材は、
これから三年間学習する古文のスタートとしての意味を持っています。

三年間の古文学習のゴールに待っているのは高校入試でしょう。
高校入試では、以下の問題が出題されます。
  • 現代仮名遣いに直す
  • 古語の意味を答える
  • 主語を補う
  • 助詞等を補う
  • 会話文を問う
  • 主題や大意を問う
  • 説明的文章との関連問題
この高校入試につながる古文のスタートして
「いろは歌」で特におさえたい内容は
音読することを通して、
  1. 古文は歴史的仮名遣いで書かれているが、読むときは現代仮名遣いに直して読まなくてはいけないこと……この力をみるために「現代仮名遣いに直し、すべてひらがなで書け」という問題があります。
  2. 古語は、現代語にはもうなくなってしまった語や、現代語で使っていても意味が違う語があること
を強く意識させることだと思います。

導入 「いろは歌」言えるかな

まず、いろはかるたについて生徒の注意を向けます。
「犬も歩けば……?」「論より……?」と問いかけ、
「これ、何かるた?」と問いかけます。

「いろはかるた」は江戸、大坂、京都と微妙に異なりますから、その地方のものになるように注意すると良いですね。(このことは過去の全国学調でも出題されました。)

「この『いろは』って、全部言えるかな?」と問い、
生徒の答えに従って全文を板書します。

いろはにほへと ちりぬるを
わかよたれそ つねならむ
うゐのおくやま けふこへて
あさきゆめみし ゑひもせす

展開1 現代仮名遣いで「いろは歌」を読もう

「いろは歌」を古文として、内容が理解できるようにアクセントやイントネーションをはっきりさせて範読します。

いろ にオエド、ちりぬるを。
よ たれ、つねなら
の おくやま、キョウ
あさき ゆめみエイもせ

ここで意味を問うても生徒は答えられませんから
「なんとなくわかるような気がしますね」程度に抑え、
「どこが違った?」と問います。
  • 「は」はワと読む……これは現代語と同じです。(古語の名残り)
  • 違う読み方をするものがある。
  • 「ゐ」「ゑ」はイ、エと読む。(ワ行音のイ音とエ音です 戦前まで使われていました)
  • 「けふ」は「今日(キョウ)」と読む。
答えられなければ、黒板を示しながらもう一度範読します。
すると、読み方が違うことに気づきます。

そして古文の「歴史的仮名遣い」と「現代仮名遣い」について説明します。
そして
  • すらすら読めるかどうかを見るために、テストでは「きちんと読めるかどうか見るために、ひらがなで現代仮名遣いを書かせる」から、何回も音読して体で覚えよう
と言い、教科書を開かせて現代仮名遣いに直す箇所をチェックさせます。

展開2 「いろは歌」の意味を知ろう

更に「教科書の下にあるように、漢字仮名交じり文で書くと、更になんとなくわかりますね。」と言って範読します。

しかし教科書の現代語訳だけでは、生徒は何を言っているのかわかりません

書かれている内容の細かな解釈は諸説があるので、
教科書には載せられなかったのでしょう。

そこで教師の側から説明します。

色はにほへど
 色は匂うように美しく照り映えていても
散りぬるを
 いつかは(花は)散ってしまう
我が世たれぞ
 私たち この世の誰が
常ならむ
 永久に変化しないでいることができようか(いつかは死んでしまう)
有為の奥山
 いろいろなことがある(人生の)深い山を
今日越えて
 今日も越えて(いくのだが)
浅き夢見じ
 浅い夢など見ることはしない
酔ひもせず
 心を惑わされもしない

「色」は「色即是空」の「色」で、
形あるもの、認識の対象となる物質的存在の総称です。

仏教では、万物の本質は実態のない空しいものであり(色即是空)、
空であることがこの世のすべての事象を成立させる道理である(空即是色)と教えています。

これは生徒には少し難しいので
  • 今匂うように咲き誇っている桜の花も、必ず散ってしまう定めにある
くらいに訳しておいてよいでしょう。
ただし「色は」ではなく「色葉」であり、桜と紅葉のことを指しているという説もあります。

「常」は恒常不変の「常」です。世の中誰でも永久に生き続けることはできません。

「有為」は因縁によって起きる一切の事物のことです。
世の中の全ての現象は因果関係によって成り立っています。
複雑に絡み合って発生している無常の現世を、どこまでも続く深山に喩えたものです。

最後の二行を
  • 有為の奥山今日越えて   (迷い多く悲しい奥山を越えて行こう)
  • 浅き夢見じ酔いもせず   (人生の儚い栄華に酔わないように)
と訳すこともできます。
「いろは歌」には「こう訳す」という定説がないのです。

この意味を押さえてから、もう一度「いろは歌」を音読させます。

当然歴史的仮名遣いを現代仮名遣いに直した読み方です。
これを暗誦させるのです。

旧仮名遣いの「いろは歌」を暗誦させても、今後の古文学習にはつながりません

意味がわかれば正しく音読できる……音読することで意味がよりはっきりわかる
これが中学校における古文の学習の基本だと思います。

「読書百遍意自ら通ず」ですね。

終末 古文を読んで気づいたこと
  • 書いてある旧仮名遣いではなく現代仮名遣いに直すことが大切だとわかった。
  • 何回も音読すると、古文の意味がわかってくる。音読を一生懸命やりたい。
等に気づいていれば十分だと思います。

時間が余ったら 1

「いろは歌」の全く異なる解釈について教えてあげましょう。

「金光明最勝王経音義』(こんこうみょうさいしょうおうきょうおんぎ)(承曆3、1079)という仏教の解説書の冒頭に「いろは歌」が載っています。この「いろは歌」は7音で区切られています。

 いろはにほへ
 ちりぬるをわ
 よたれそつね
 らむうゐのお
 やまけふこえ
 あさきゆめみ
 ゑひもせ

それぞれの行の下の文字だけを読むと
  • とかなくてしす(咎なくて死す)
つまり「罪がないまま死ぬ」となります。

このことは昔から知られていて、江戸時代の国語辞書にも記されていたそうです。

そのため、当時の学者には
「忌まわしい言葉が含まれているのはよくない」
「子どもの手習いには『あいうえお』を教えるべきで『いろは歌』を教えても良いことはない」
と考える人もいました。

『いろは歌』は作者不明ですが、この説に立つ場合は、
藤原氏に左遷され憤死した菅原道真や
刑死したとされる柿本人麻呂が作者ではないかと考える人もいるようです。

時間が余ったら 2

平成25年度の全国学調国語B問題をやらせるのも一興かも知れません。

ここれは「いろはかるた」に関する説明的文章の読解問題になっています。



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3時間目 まとめとしての「黄鶴楼にて~」と「春望」

いよいよ五言律詩です。一時間目の授業で教えた内容を覚えているかから授業をスタートします。
残りあと1時間。今日中に「黄鶴楼にて~」を終わらせてしまわないといけません。
かと言って、知識注入型の授業をやっていたのではダメです。

まあ、研究授業をやるとしたら、ここですね。

この詩で指導しなくてはいけない内容は
  • 「故人」「辞」「煙花」「下」等の字義。
  • 転句と結句の意味。特に結句の現代語訳。
  • 詩の主題
ポイントは「詩の主題」であり、作者李白の心情に迫るあたりでしょう。

手立てとしては、考えさせ、一人一人で考えをまとめさせ、発表し合って更に考えを練り上げる部分が授業の見せ場となります。

しかし、漢字の意味を知らないと、作者の心情に迫ろうにも迫れません。単なる自分勝手な妄想のレベルです。ですから授業の前半はやはり字義をもとに指導をしていきます。

今まで1字ずつ字義から内容を考えてきましたが、「黄鶴楼にて~」では単語で区切って考えさせていきます。

  1. 「故人」は「古くからの親友」の意味であり、現代語とは意味が違うことをおさえる。
  2. 「辞」は「辞世の句」「先生のお宅を辞する」等の用例から退出の挨拶をするという意味であることをおさえ、この詩はどのような状況を表しているか考えさせる。教科書の記述をもとに「いつ・どこ・だれ・何をした」をおさえる。
  3. 「煙花」を「煙火」とテスト等で間違えやすいので注意を促す。
  4. 「揚州」は題名の「広陵」と同じであり、黄鶴楼のある武昌から見て長江の下流にあるため「下」の字を用いていることに気づかせる。
  5. 起句と転句が、「黄鶴楼」「煙花」「三月」「揚州」等、明るく都会的な雰囲気であることをおさえる。
  6. 転句では「孤帆」「遠影」「尽」等から暗い雰囲気に変わっていることに気づかせる。
  7. 転句の情景を考えさせる。
  8. 結句の現代語訳を考えさせる。ポイントは、書き下し文は古文であるためそのまま書いてはいけないことを教えること。「長江の天際に流るるを」と書いたら×。長江が天際に流れるのを」と書いても×。「長江が天際まで流れていくのを」等、長江の流れる方向まで注意して訳さなくてはいけないことを知らせる。
  9. 結句での筆者の姿から心情を考えさせる。
  10. 教科書解説文を読み、主題である「別離の悲しみ」という言葉をおさえる。
  11. 押韻を考えさせる。七言絶句の場合、押韻は起句・承句と結句になくてはいけないことを思い出させる。
この授業でもっとも大切にしたいところは、
  • 親友孟浩然が乗った「孤帆」を地平線のかなたに見えなくなるまで見送っていた李白が、見えなくなったその後でもずっと長江の流れを見続けていた、
その心情を考え合う場面でしょう。
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これがないと、ただの字句の解釈を教科書に沿って教えただけの授業となり、いわゆる国語の力はつきません。

今までと違い、教科書を開かせないことが授業を成立させるポイントです。

教科書には「別離の悲しみ」とありますが、これを自分なりの言葉で表現させるのがねらいです。
予習している生徒もいると思いますが、このような細かなところまで気づいている生徒は少ないでしょう。もし「別離の悲しみ」という言葉を教科書から知っていた生徒がいたとしたら、吹き出し等を用いるように、李白の具体的な言葉で表現させるのもよいと思います。

4時間目 「春望」でまとめの授業をしよう

いよいよ五言律詩です。

律詩ですから押韻の位置と対句をおさえないといけません。
五言律詩は、偶数句に押韻があり、第三句と第四句(顎聯)と第五句と第六句(頸聯)が対句ですが、「春望」の場合は第一句と第二句(首聯)も対句になっています。

この対句と押韻の指導の他に、まとめとして返り点の指導が必要です。

対句の性質がわかれば顎聯と頸聯はなんとか解けますが、間違いやすいのが第八句でしょう。
レ点の二連続は「春暁」にありましたが、ここは三連続となっています。

大まかな字句的な指導をした後で、「春望」の訓読文を書き下し文に直したり、書き下し文を訓読文に直したりする練習をやらせたり、起承転結の四コママンガを書かせたりしています。
images (2)

しかしこの四時間だけでは、十分に漢文や漢詩を読解する力がつくとは思えません。
やはりあとは、プリント等による練習が必須だと思います。

いずれにせよ、駆け足で進める単元ですが、手抜きはしたくないと思っています。

**********

「漢詩の風景」を自習で進めていけるプリントをBOOTHにアップしました。
このプリントには、返り点の練習プリントが解答も含め7枚ついています。

是非利用ください。


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2時間目 

残りあと3時間。「絶句」と「孟浩然~」と「春望」です。
「春望」をやらない学校もあるようですが、ここでは是非やらせたいと思います。
なぜなら、その他は絶句ばかりだからです。それに「春望」は三年生の「おくのほそ道」に登場します。返り点や対句もしっかりあります。この単元のまとめとして触れたい教材です。

「絶句」で指導したい内容は、
  • 対句
  • 「碧」「白」「青」「然」、1~2句と3~4句の対比
  • 「江」「碧」「逾」「然」「看」「又」の意味
です。

ただ講義をすることだけで済ますならすぐ終わりますが、生徒との応答の中から気づきを引き出そうとすると1時間かかってしまいます。
ここは、生徒が漢文嫌いになるのを避けるために、「絶句」は一時間かけてやります。

そこでこの時間も教科書に一役買ってもらいます。

おおまかな展開は次の通りです。
  1. 「江」の字を掲示し、どういう意味か答えさせ、ここでは長江(揚子江)を指すことを教える。
  2. 「碧」の字を掲示し、どういう意味か答えさせ、青緑の色であることを教える。
  3. 「江は碧にして」は、長江の色であることをおさえる。
  4. 「逾」の字を掲示し、「イヨイよ」と読み、「ますます」という意味であることを教える。
  5. なぜ「鳥はますます白い」のか考えさせ、碧との対比であることに気づかせる。
  6. 「欲」の字を掲示し、「ホッす」と読み、「~しようとする」という意味であることを教える。
  7. 「然」の字を掲示し、この字は神への捧げ物として犬の肉を焼く古代中国の儀式を表したものであり、もともと「燃える」意味があることを教える。更に「花が燃えようとしている」とはどういう意味か考えさせ、「花は燃え上がるように赤い」ということから「然=赤」であることをおさえる。
  8. 起句と承句は対句になっていることを教え、律詩には対句の決まりがあることを教える。
  9. 「看」の字を掲示し、手を目の上にかざす姿勢をさせ、どのような意味があるかを考えさせ、「手を出さずに眺めている」状態であることをおさえる。
  10. 「今春看又過」の意味を考えさせる。「今年の春もまた何もできないままで過ぎてしまう」ことをおさえる中で、「又」から、一回だけでなく何年間もそう過ごしてきたことに気づかせる。
  11. 「何日是帰年」の意味を考えさせる。
  12. 教科書を読み、「碧・白・青・然=赤」は「南国の春景色」であり、「故郷の明るい春景色の中で、悲しみに沈む作者の姿」が対比的に描かれていることをおさえる。
  13. 「然」と「然」が押韻であることをおさえる。
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板書したり、指名したりしながら生徒に気づかせていく授業を展開すると、これで一時間かかると思います。

この詩には返り点がありません。時間が余ったら返り点の練習プリントをやらせてもよいでしょう。

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Missyon Impossible

昔々「スパイ大作戦」というアメリカのテレビ番組がありました。
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アメリカ政府が手を下せない極秘任務を遂行するスパイ組織IMF(Impossible Missyon Forse)の活躍を描くアクションドラマです。毎回「当局」からオープンリールのテープレコーダーでメンバーに指示が届き「君もしくは君のメンバーが捕らえられ、あるいは殺されても、当局は一切関知しないからそのつもりで。なお、このテープは自動的に消滅する。」という台詞と同時に、そのテーブレコーダーが爆発する、というシチュエーションは、その後の様々な番組に影響を与え、パロディーを生みました。

この「Missyon Impossible」とは「実行不可能な指令」という意味です。「当局」の無茶振りの指令を奇想天外な方法で解決していく、というのがこの番組の醍醐味でした。

いよいよ本格的な漢文の学習となります。しかし光村図書では、この「漢詩の風景」に3時間、三年生の「学びて時にこれを習ふ(論語)」で2時間という指導時数となっています。漢文・漢詩の読解に必要な返り点等の知識は一年生「今に生きる言葉(故事成語)」で2時間で扱ってある、ということになっています。
三年生の復習テストや、塾などの模擬テストのことを考えると、この「漢詩の風景」である程度の力をつけておかなくてはいけません。

しかし、はっきり言って、無理……Missyon Impossibleです。

入試問題を見ると、返り点についてもレ点と上中下点が複合している問題はもちろん、一レ点や否定文字、再読文字等が出題されています。
文法事項もそうですが、入試を考えた場合、教科書の扱いや指導時数には?がつくことがたくさんあります。
だからこその入試改革なのかも知れませんが、これでは古文離れや文学離れが進んでもしかたがありません。
そもそも、こういう基礎知識なしで、どうやって新しい知識を創り出そうというのでしょう。

と愚痴を言ってもしかたがありませんから、どうやってやっているか説明します。

1時間目前半 テンポ良く進めよう

入試や定期テストを考えた場合、生徒に教えなくてはならない基礎的事項には、以下のものがあります。
  • 「白文」「訓読文」「書き下し文」と、返り点等の漢文読解に関わる知識
  • 「五言絶句」等の形式や「起承転結」といった構成法、またそれらと関連する対句・押韻
そこでまず、「春暁」で「白文」「訓読文」「書き下し文」の説明と、返り点等の関係を説明します。

  1. 「春」の字を掲示し、どういう意味か答えさせる。
  2. 「眠」の字を掲示し、どういう意味か答えさせる。更に「春眠」でどういう意味になるか考えさせる。
  3. 「不」の字を掲示し、どういう意味か答えさせ、何かを否定する字であることをおさえる。
  4. 「覚」の字を掲示し、これは「はっきりわかる」「目がさめる」という意味があることをおさえる。更に「不覚」で「わからない」「目がさめない」という意味になることをおさえる。
  5. 「暁」の字を掲示し、どういう意味かを答えさせ、「夜明け」という意味であることをおさえる。
  6. 「不覚暁」でどういう意味になるか考えさせ、「夜が明けたのがわからない」という意味になることをおさえる。
  7. 「春眠-不覚暁」とつなげると、どういう意味になるかを答えさせる。
  8. 「春の眠りは、夜が明けたのもわからない」のはなぜかを考えさせ、答えさせる。
  9. 「春眠不覚暁」の順番でなく、送り仮名をつけて順序を入れ替えれば漢字仮名交じり文として「春眠、暁を覚えず」と読めることを教える。
  10. 返り点をつけ、「白文」「書き下し文」「訓読文」の関係を教える。
生徒の考える力を育てるためには、この流れをゆっくりやりたいところですが、これに時間をかけていると『春望』までたどりつきません。15分程度でテンポ良く片付けたいところです。どんどん指名し、ノリで授業を進めます。

1時間目後半 「春暁」で漢詩の基礎知識をおさえよう

一時間目の後半では「春暁」を使って、漢詩の形式と構成法・押韻と、返り点の打ち方(読み方)の指導をします。

ここでフル活用するのは教科書の解説部分です。
  1. 「処々聞啼鳥」を掲示し、「泣」「鳴」とは違う「啼」の意味を教え、どんな意味になるか、前の行とのつながりで考えさせる。
  2. 一行目のレ点と、二行目の一二点の使い方を教える。返り点の知識は、一年生で教えたと言っても、生徒はほぼ忘れてしまっていますから、その復習です。
  3. 「いつ」「どこ」を考えさせる。一行目から春の朝と言うには少し遅い時間であること、「聞」とあるので実際の風景は見ていないため、寝床の中であることをおさえる。
  4. 「夜来風雨声」を掲示し、急に暗く不安なイメージの字が登場したことに気づかせる。「来」には「~以来ずっと」の意味があることを教え、どんな意味になるかを考えさせる。
  5. 「花落知多少」を掲示する。
  6. 「花落」を前の行とのつながりで「ああ、昨晩の風雨で花が散ってしまったのかな」と考える生徒が多いので、「花」は桃の花であることを教えるのと同時に「散った桃の花が地面に敷き詰められて、地上も樹上もピンクに染まっている」ことをおさえる。「知多少」は様々な訓読法があるので軽く流し、教科書の解説文に移る。
  7. 教科書の解説文を範読し、大切なところに傍線をひかせる。傍線をひかせるは「明るくのどかな気分」「四句から成る漢詩を、絶句」「『起承転結』という構成法」「起句」「承句」「転句で、場面が転換」「全体を締めくくる結句」「春の朝の気分」です。
  8. 漢詩の形式と漢詩の構成法を板書し、まとめる。ここでは「五言絶句」「五言律詩」「七言絶句」「七言律詩」をおさえる。
  9. 漢詩には押韻があることを教え、各形式には決まった句に韻がふんであることを教える。「春暁」の場合は、原則以外に一行目にも押韻があることを教える。
ちなみに「啼」ですが、妖怪の子泣きじじいは児啼爺とも書きます。
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妖怪のなき声を鳥獣のそれに例えているのですね。赤ん坊だって悲しくて泣くのではありませんから、この字を使うのかもしれません。

ここまでを一時間で終わらせることができたら、たいしたものだと思います。

**********

「漢詩の風景」を自習で進めていけるプリントをBOOTHにアップしました。
是非参考にしてください。

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「今に生きる言葉」は、中学校最初の漢文の授業です。

指導内容としては、「ア 伝統的な言語文化に関する事項」の
  • 文語のきまりや訓読の仕方を知り、古文や漢文を音読して、古典特有のリズムを味わいながら、古典の世界に触れること。
が中心になると思います。

きちんと取り扱いたいことろですが、2時間扱い(作文も入れて3時間扱い)となっています。
とても厳しい時数です。

そこで、私は、以下のように指導しています

1時間目

最初にあるのが、故事成語の解説文です。
ポイントは「故事成語」の定義です。

教科書には
「中国の古典に由来する言葉」の中で
「歴史的な事実や古くから言い伝えられているたとえ話、エピソードなど、故事を背景にもっているもの」で
「故事から生まれた言葉」とあります。

これをおさえてから、
「推敲」「蛇足」「四面楚歌」や教科書に載っている「漁夫の利」を、生徒の興味関心をひくように話し、
「みんなも故事成語を一つ探し、もとになっている故事と、その言葉の意味を発表できるようにワークシートにまとめておこう。次の次の時間に発表してもらうよ。」と予告します。

「犬も歩けば棒にあたる」とか「アリとキリギリス」とか、
教科書の定義と違う慣用句やことわざを調べてくる生徒もいます。
このようなことのないように、しっかり釘を刺しておくと良いでしょう。

取り扱いに困るのは論語等にある「光陰矢のごとし」のような言葉です。
これらは中国の古典由来ですが、たとえ話やエピソードではないため、故事成語とは言えません。
しかし、ここまでいくと、生徒には見分けがつかないものもありますので、
私はそれでもよしとして、「これは故事成語とは言えないけれど……」と言い添えます。

このようなことを避けるために、
「図書館やネットで『故事成語』にはどんなものがあるか調べるといいよ」とアドバイスしておきます。

2時間目
矛盾1
「矛盾」の指導です。
ここは何度も音読させることで、文語のきまりや訓読の仕方を知り、古文や漢文を音読して、古典特有のリズムを味わいながら、古典の世界に触れさせるのがねらいです。

3時間目

生徒が調べてきた故事成語の発表を行わせます。

発表させながら「白文」と「訓読文」と「書き下し文」の指導を行います。

多くの生徒は、漢字による熟語を探してくるでしょう。
生徒が発表した故事成語に、返り点や送り仮名を付けて訓読文に直し、更に書き下し文にしていくのです。

単元末にある「漢文を読む」というコラムには
  • 漢字のみで書かれた原文(白文という)に送り仮名を補ったり、返り点や句読点を付けたりして、日本語の文章として読めるようにすることを訓読という。訓読のために付けるさまざまな符号をまとめて訓点という。
とあり、更に「送り仮名」「返り点」「句読点」「書き下し文」等の解説が載っています。

ただ読んだだけでは生徒には具体的にイメージできないかも知れません。
そこで、生徒が調べてきた故事成語をもとに、教師がそれを白文に返り点や送り仮名をふって訓読文に直してやり、更に書き下し文にしてみせるのです。

少し慣れてきたら、生徒にチャレンジさせてみてもよいでしょう。

また、これを端緒として、毎時間やる漢字テストで、熟語が出てきたら適宜指導していきます。
これによって、2年生で行う「熟語の構成」がスムーズに学習できること請け合いです。

「今に生きる言葉」の学習プリントを作成しました。
興味のある方はこちらへどうぞ。


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光村の指導書を見ると、
「古今和歌集仮名序」と「君待つと」を合わせて3時間で扱うことになっています。
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おいおい、ちょっと待ってくれ、
そんな短い時間で、教科書の載っている和歌を教えられるわけないじゃん、
と言いたいですね。

そこで、よくある指導は、
生徒に好きな短歌を調べさせ、発表させる、というものです。

しかしこの方法はなかなかうまくいきません。

自分の発表はそれなりにやりますが、人の発表はそんなに真剣に聞かないからです。
もしグループでやらせるとなると、
グループの誰かに任せてしまって、まったくやらない生徒も出てきます。
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一人一人にレポートを出させて、それをまとめようとしても、
この受験に向けて総合テストの対策に忙しいこの時期に、
やってられない、というのが3年生の気持ちでしょう。

私たちだって和歌の学習に何時間もかけてはいられない、というのが本音です。
3年生の気持ちであると思います。

そこで、私はこの単元を次のように指導しています。

1時間目

まず、教科書に載っている和歌を一枚の紙にまとめ、全部すらすら読めるまで音読させます。

次に「歌はもともとシャウト(感情のほとばしり)である」といい、
♡の気持ちがこもっている歌はどれだろう」と問い、一人一人に紙に印をつけさせてから、
グループ毎に話し合わせ、グループとしての見解をまとめさせます。

間違いなく上がるのは額田王「君待つと」、東歌「多摩川に」でしょう。

意見の分かれるのは防人歌「父母が」、大伴家持「春の園」、小野小町「思ひつつ」だと思います。

ここで「♡の歌」と言ったのは、
男女の恋愛を歌った歌と、親子の情愛を詠った歌とをわざとあいまいにするためです。

「♡の歌」に入れても良いものはどれか。なぜそう考えるのか、
これを言わせることを通し、
歌の理解を深めると共に、
生徒なりの「部立て」(和歌の分類)を行わせようというのです。

話し合いを進める中で
「♡は、恋愛の歌と親子の情愛の歌に分かれるんじゃないの?」と生徒は考えます。
出てこなかったら、こちらから言ってしまってもかまいません。

そして

「♡マークは、男女の恋愛の歌と、親子の情愛の歌に分かれたね。
では他の歌は、どのように分類できるか、次の時間までに考えてきてください」

と言って、一時間を終わります。

2時間目

2時間目は、生徒が考えてきた分類に従って分けていきます。

これは、原典に基づいた正式な「部立て」である必要はありません。
大切なことは、和歌で読まれた内容のおおよそを生徒が自力で理解していくことなのです。

和歌が単独で高校入試に出題されることは、あまりないと思います。
出題されるとすれば、歌物語として出題されるでしょう。

そこで、その対策として私は、かつて教科書に載っていた「伊勢物語」で指導をしています。
興味のある方はこちらからどうぞ。

生徒たちは、
  • 景色を詠んだ歌
  • 季節を詠んだ歌
  • ♡マーク以外の人情を詠んだ歌
などを考えてくると思います。
あくまでも生徒が考えたもので良いのです。

その中で、生徒の考える分類に従いながら、

「その通りですね。そこでプチ知識として~」と、正確な知識を与えていきます。

例えば
柿本人麻呂「東の」は実はヨイショの歌だったとか、
山上憶良「憶良らは」は宴会で場を盛り上げるための歌だったとか、
紀貫之「人はいさ」は冗談の言い合いの歌だったとか……。

これをやっていると、1時間などすぐに過ぎてしまいます。

そして最後の一時間は、和歌から連歌、俳諧、俳句に連なる日本文学史の復習と、韻文の技法の復習をやっておしまいにします。

時期的に言うと、
統一模試も佳境に入り、最後の総合テストも間近な時期でしょう。
生徒がなるべく受験に集中できるように、
そして一点でもたくさん点がとれるように指導していくのが功徳だと思います。

「君待つと」の和歌の解説を作成しました。
教科書に載っている和歌の具体的な解説です。
興味のある方はこちらへどうぞ。
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「月に思う」は、きちんと取り扱うかどうかは、学校により違いがあります。
私の場合、次の内容を約1時間でおさえます。

雪月花
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「雪月花」とは、テキストにも書かれている通り、冬の雪、秋の月、春の花のことです。
四季おりおりの自然の美しさ、風雅な眺めをいいます。
日本の自然美ですね。

この言葉は、白居易の詩に由来します。
この詩では「雪月花の時」とあり、それぞれの景物の美しいとき、すなわち四季折々を指す語でした。
そうした折々に、遠く離れた部下のことを思っている、という内容の詩です。

似たような言葉に「花鳥風月」というのがあります。
これも美しい自然の風景や、それを重んじる風流を意味します。

こちらは日本の貴族の遊びからきた言葉です。
「花鳥風月」とは元々貴族が自然の美しい景色を堪能して、それを詩歌に盛り込んでしたためるという風雅な遊びを意味していました。
2年生で習う「扇の的」では、赤色の地に金の日の丸を描いた扇が海に舞い落ちる様子を名所の紅葉に例えて美しさに感動する平家の公達の姿が描かれています。
花鳥風月を和歌に織り込むのが貴族達にブームだったのです。

これが室町時代になり、世阿弥の「風姿花伝」の中に
  • 上職の品々、花鳥風月の事態、いかにもいかにも細かに似すべし
という文があります。
花を愛でて鳥のさえずりに耳を傾けて、自然界の美しい風景に親しむ様子を「花鳥風月」と表したのです。
この「風姿花伝」から「花鳥風月」という言葉が使われ始めたとされています。

「花鳥風月」は、自然の美しいものや風景を意味し、
「雪月花」は、「雪と月と花」から、日本の四季折々により楽しめる美しいものを意味します。
どちらも自然の美しいものを表しているのですが、
「自然界のもの」であるか、「四季折々のもの」であるかという微妙な違いがあります。

ちなみに、宝塚の組は「雪月花」が由来です。(今は星と宙組が加わっています。)

旧暦の八月十五夜の月は中秋の名月

現在八月といえば夏です。私は以下のように指導しています。
  • 「新春」という言葉があるように、昔は1~3月を「春」、4~6月を「夏」、7~9月を「秋」、10~12月を「冬」と言った。
  • だから、8月は「中」の秋で中秋と言う。
  • ただし、実際の季節は今と同じではない。昔の8月は今の9月以降である。年によって違うが、一ヶ月以上ずれている。
  • これは、今の暦が太陽暦と言って太陽の動きをもとに作られたものであり、昔の暦は太陰太陽暦と言って、月の動きをもとにしていたためである。太陰暦では一年間の長さが太陽暦と比べると一年間で11日短くなってしまう。そこで太陽の動きを参考に、季節のずれを閏月というもので修正していた。
  • ちなみに八月十五夜は2019年の場合9月13日にあたる。
生徒に覚えておいて欲しいことは、
古文で春夏秋冬とあっても、今の季節とは少し違うかも知れないということです。
特に俳句の季語は古文の春夏秋冬で言い表しますから、
「こいのぼり」は夏の、「七夕」は秋の季語となります。
季節感としては、今のものと一ヶ月以上離れていると思って間違いありません。
古文を読んで今の何月何日になるかは、ネットなどで調べさせると良いと思います。

時間があれば、十二支と時刻、方位の関係も教えてしまいます。
これは2年生の「扇の的」の「ころは二月十八日の酉の刻ばかりのことなるに~」のところでも扱います。

望月

月の満ち欠けをもとにした太陰暦では、空の月が一番欠けた状態を「朔」(さく)と言い、
この「朔」から約15日たつと満月になり、これを「望」(ぼう)といいました。
朔は「ついたち」とも読みます。
ですからその月の初めが月が一番欠けた状態の日で、15日が「望月」の日となるわけです。

さやけさ
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テキストに「明るくくっきりとしているものに対するすがすがしさ」とあります。
古語辞典には「清く澄んでいること。明るくはっきりしていること。すがすがしいこと。」とあり、「~に対する」と微妙なニュアンスの違いを、筆者は主張しています。

明るくくっきりした月の光は、単なる物理的現象です。
その現象に対して「すがすがしく感ずる」のは自分であり、
それを「自分の心のありよう」と言いたいのだと思います。

自分の心のありよう

「自分の心のありよう」とは、ありのままの自分の心の状態のことです。
雲間から漏れ出た月の光を見てすがすがしい美しさを感ずる素直な気持ちを言います。

そして、例えば「義務教育の-」と言った場合、
「あるべき姿」「理想的なあり方」という意味になります。
月の光を見てすがすがしく感じるのが理想的な気持ちの持ち方である、と主張しているともとれます。

つまり、
「私たちは新たな月の美しさに触れ、それに向かい合ったときの私たち自身の心のありように気づく」
とは、月の光を見て美しいと感じている自分に気がつく、とか、
そう感じる自分は間違ってはいないんだと思っていいことがわかる、という意味になります。

これを詳しく解説しているのが、次の「この歌に歌われているような光景は~」に始まる段落です。

この歌を知らなかったら、同じような景色を見てもそれを美しいと思わないでスルーしてしまうじゃないか、この歌を知っていれば、同じような景色を見て「あ、これは美しい景色なんだ」と気がつくじゃないか、ということです。

そして、このような古典の時代から受け継がれている気持ち(美意識?)は、「私たちがまだ知らない私たち自身の心」で、古文を読んで、「新たな自分」を発見しましょう、と言っているのです。

ここらへんは、読解問題として是非テストに出題したいところですね。

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祗園精舎の鐘の声、
諸行無常の響きあり。
娑羅双樹の花の色、
盛者必衰の理をあらはす。
おごれる人も久しからず、
唯春の夜の夢のごとし。
たけき者も遂にはほろびぬ、
偏に風の前の塵に同じ。

ここで言う「祇園精舎の鐘の声」とは、
祇園精舎の西北の角にあったという無常院の鐘のことを指します。
お釈迦様が、病者に安らかな臨終を迎えさせるための施設です。
ここに居る人が亡くなるとき、自動的に鐘が鳴ったといいます。

この「諸行無常」の考え方は無常観と言います。

平安時代の花鳥風月に代表される自然の美を追究する時代は終わり、
血で血を洗う戦乱の世になりました。

道ばたに死骸がごろごろ転がっていて、
西行法師が小野小町のドクロに会った頃の話です。

そういう時代の中で、人々は死後の世界に救いを求める末法思想が流行りました。
宇治平等院が有名ですね。
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そういう時代の中で育ってきたのが無常観です。

「諸行無常、盛者必衰」という仏教的無常観は
『平家物語』を端緒として、西行の歌や吉田兼好の『徒然草』、「ゆく河の流れは絶えずして、しかも、もとの水にあらず」で始まる鴨長明の『方丈記』など、
その後の日本の中世文学に大きな影響を与えました。

一年生で学習した「いろは歌」もこの流れの中にあります。

「永遠なるもの」を追求し、そこに美を求めたヨーロッパ人とはまったく異なる美意識ですね。

無常観を少しこじらせると世捨て人となり「隠者文学」となります。

更にこれを「幽玄」の世界として表現しようとしたのが「能」でしょう。
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これが禅の教えと融合し千利休の「茶道」に結実します。
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茶の湯の道で求めた「侘び」「寂び」は、連歌の宗祇を経て松尾芭蕉につながります。
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これらの人々は三年生の「おくのほそ道」冒頭に出てきます。
「おくのほそ道」冒頭では、文学史のおさらいをするわけですね。

平家物語冒頭「祇園精舎の鐘の声~」は、おそらく一時間かけて行うのが常だと思います。
一時間ずっと音読・暗誦練習というのも何であうので、この知識を与えるというのもアリだと思います。

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「扇の的」の成功確率

那須与一は、高さ30㎝以上幅50㎝以上の扇の的に、70~80mくらいの距離で命中させていますが、どのくらいの成功確率だったのでしょう。
全日本遠的競技会優勝経験者数名で実験したところ、五分の一の確率で成功したそうです。
また、テレビ番組でも実験したところ、成功しています。
(テレビですから編集したでしょうけどね。)
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気象条件や弓矢の性能等を考えると、与一は名人には違いありません。
しかしMissyon Impossibleなものではないようです。5回に1回は成功が期待できるのですから。

戦に明け暮れた当時の武士たちの中では、
「弓の名人ならば、運が良ければ命中させることができるかもしれない」
くらいの意識だったのではないでしょうか。

なぜ平家は「扇の的」を挑んだか

『源平盛衰記』によると、

この赤字に金の日の丸の扇は、安徳天皇の父親である高倉院が厳島神社に奉納したものです。
平家が都を追われたとき、厳島神社に立ち寄り、神主から
  • この扇には高倉院の気持ちがこもっていて、これを持っていれば敵が矢を射かけてもUターンして射た人にあたる
と言って渡されました。
そこで、この扇を的にして、平家が勝つか源氏が勝つかの占いをしよう、ということになったのです。
平家は「高倉院のご加護があるので、源氏の矢はあたらない。占いは平家の勝ちとでる」と思ったのでしょう。

そしてもう一つ、この扇は射ることがはばかられる要素がありました。

それは、真ん中に描かれている金の丸です。
これは日輪を表します。
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『源平盛衰記』でも、与一は「日輪が描いてあるので、射るのは畏れおおい」と、日の丸を狙わずに扇の要を狙います。

中国の故事に太陽を射る話がありますが、これは一度に10個も太陽が出たため人々が干ばつに苦しんでのことです。
太陽に対して、単純に「射ることは畏れおおい」と考えただけでしょうか。

赤地に金の日の丸というのは、赤は朝廷の色、金は太陽の象徴とされています。そして太陽神アマテラスの直径の子孫である天皇も、太陽の象徴と考えることができます。
そのため、赤地に金の日の丸のデザインは、後に「錦の御旗」と呼ばれる天皇旗となります。
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この時、平家は安徳天皇を奉じていました。
一方、後白河法皇は安徳天皇の弟、後鳥羽天皇を立てましたが、彼は天皇の継承に必要な三種の神器は持っていませんでした。

平家には三種の神器を持つ安徳天皇こそが正統な天皇であるという思いが強かったのではないでしょうか。

そして、天皇の象徴とも見える赤字に金の日の丸の扇を出し、
「三種の神器を所持する正当な正統な天皇に『弓を引く(反逆する)』つもりか」
と、源氏を挑発しようとしたのかもしれません。

これを察した弓の名人の上級武士達は「扇を射よ」という義経の命令を断り、
一番下っ端の那須与一にお鉢がまわってきたのかもしれません。

ちなみに、歴史上最初に「錦の御旗」を使ったのは、くだんの後鳥羽上皇です。
時の執権北条氏に反旗を翻した承久の乱で用いました。

何か因縁めいていますね。

平家は何に感動したのか

 『源平盛衰記』では、与一が扇を射た後、扇をセットした女房、玉虫の前が次の歌を詠んでいます。

  • 時ならぬ花や紅葉をみつるかな芳野初瀬の麓ならねど(その季節でもないのに、桜の花や紅葉の舞い落ちる様子をみたことだ。ここは桜や紅葉の名所の芳野や初瀬の山の麓でもないのに。)

  与一は、扇の要の少し上を射切りました。童謡『紅葉』ではありませんが、
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  •  溪(たに)の流に散り浮くもみじ/波にゆられて はなれて寄って/赤や黄色の色さまざまに/水の上にも織る錦(にしき)

 と、錦地に金の扇が要の部分を射切られて海に舞い落ちる姿を紅葉に見立てたのでしょう。


見立て遊びは、平安貴族の基礎的素養です。どっぷりと貴族化してしまった平家の特徴がよくあらわれています。

なぜ平家の男は射殺されたのか


 『源平盛衰記』には、次のように書かれています。

  • 平家の男が舞を舞ったとき、源氏の中で「射殺すべし」と「射てはならない」という二つの意見がありました。「あんなに感動している者を射るのはいかがか。だいたい与一は的にあてるほどの技量であるので、殺してしまうことになる。」というのが「射てはならない」という理由です。一方「与一は扇に当てはしたが敵を倒したわけではない。まぐれ当たりと言われても面白くない。」というのが「射殺すべし」の理由です。そしてすったもんだの末、「情けは一時の感情だ。今は一人でも敵を倒すことが大切だ。」ということに決まり、射ることになりました。

そういうことで、やりきった感満載のドヤ顔をして帰ってきた与一は、また海の中へ行かされることになったのです。

ですから最後の部分の「あ射たり」も「情けなし」も、『源平盛衰記』では源氏の言葉として書かれています。


「敵を一人でも多く殺すことが戦である」
と考えた源氏は、貴族化した平家と違い、徹底したリアリストですね。

まあ、だいたい那須与一自身、実在したかどうか疑わしい文学的文章ですから、本当はどうだったかは、それこそいろいろな解釈ができると思います。
迂闊に定期テストに出題しないことをおすすめします。

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